アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


物をポジティブシンキングする仕事

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。


第11回 <物をポジティブシンキングする仕事>

入社して2年間、僕はある酒造メーカーのマーケティングを担当していました。商品はウイスキー。しかし当時は焼酎ブームのまっただ中。酒税改正で安くなったとはいえ、時代はウイスキーに向かい風でした。不景気でバーの利用が減り、健康志向で強いお酒は敬遠されるようになったのです。ジャズを聴きながらオンザロックのグラスを傾ける。そんな絵は絶滅寸前でした。


僕が担当した商品も「広告は話題になるけど売れない」という状況が何年も続いていました。そんなある日、クライアントから売れ行きが伸び悩んでいる理由を改めて分析して欲しいという依頼がきました。僕は待ってましたとばかりに詳細なデータを総動員し、いかに商品に未来がないかを丁寧にまとめたレポートを作成しました。しかしそのレポートは営業の、

そんなこと言ったらクライアントが怒っちゃうよ…

のひと言でボツになりました。耳触りのいいことだけを書き連ねた提灯レポートなんてクライアントのためにならない。現状を改善したければシビアな現実をまず受け入れることから始めるべきだ。クライアントの顔色ばかり窺ってバカな人だなあ。僕はそう思いました。でも今ならわかります。バカは僕の方でした。

商品は、企業にとって「子供」のようなものです。いくら本当のことだからって、けなされていい気持ちがするはずありません。物にも、人と同じように長所と短所があります。完璧で誰からも悪く言われない。そんな商品はこの世にないのです。広告の仕事は、商品のいいところをひとつでも多く見つけ、時代の空気や消費者のニーズに合った価値に転換すること。いわば、物をポジティブシンキングする仕事です。批評家になるのは誰でもできる。コンサル気取りで商品力のなさをあげつらっても何もいいことはないんです。


例えるならそれは、受験の進路相談のようなもの。「英語も数学もダメなんだから高望みするのはあきらめろ」と言われるのと、「社会と国語はそんなに悪くないんだからもう少し頑張ればここの学校ならイケるんじゃない?」って言われるのとどっちが嬉しいかという話です。同じ事実でも、見る角度によって意味は変わる。この世に絶対的な価値なんてないんだ。そのことに気づいてから、僕はこの仕事がグッと面白くなりました。

売れている商品を売ることは簡単です。そういう商品は広告しなくても口コミだけで売れるかもしれない。それより、いい物なのに知られていない商品の方がずっと面白い。よく映画とか漫画にありますよね?地味で目立たなかったいじめられっ子が、髪型や服を変えたらすごい美少女に変身していじめっ子たちを見返すというアレ。僕はあの手の話が大好きなんです。お金がない分、知恵を絞る。ハンデを、アイデアで乗り越える。それこそがこの仕事の醍醐味だと思います。


前述のウイスキーはその後「ハイボール」に変身して大ブレイクを遂げました。度数の高さと価格の安さ、カロリーの低さが、ビールより早く酔えるから安上がりで健康的だと、不景気でヘルシー志向の時代にマッチしたのです。あれだけ逆境にあったウイスキーでさえブレイクできたんだから、大抵の商品にはもっとチャンスがあるはずだと僕はいつも思うんです。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。