意外と死ねちゃう家庭の化学


カフェインで死なないために

昨年の年末、恐ろしい事件が報道された。僕らの眠気覚ましにお世話になっているカフェインによる国内初の中毒死が起こったというのだ。不幸にも亡くなってしまわれた方にはご冥福をお祈りするしかない。今後このような悲劇を繰り返さないために、普段僕らがどのくらいカフェインを取っていて、それがどのくらい危ないのか書いてみたい


普段僕らはどのくらいカフェインを口にしている?

まず、カフェインの致死量だがこれは農薬のときのコラムでも書いたように200mg/kgだ。これは成人男性(体重60kgで計算)だと12gとると死に至る計算になる。
しかし、日本中毒情報センターによると1gで急性中毒になる可能性があり5gで痙攣などが起こる可能性があるとされている。そこで、中毒症状が出始める1gを目安に普段僕らが口にするものにはどれくらいのカフェインが入っているのか、書いてみよう。データは文部科学省が「日本食品標準成分表2010」に公表しているものやメーカーのホームページより拝借した。もちろん、茶葉やコーヒー粉の使用量、お湯の温度と抽出時間によって変化はするので一つの目安と思っていただきたい。赤字はカフェインが中毒量にならない目安を計算した
・玉露茶(マグカップ=250ml一杯分)
・・・カフェイン400mg(2杯まで
・煎茶(マグカップ一杯分)
・・・カフェイン50mg(19杯まで
・番茶(マグカップ一杯分)
・・・カフェイン25mg(39杯まで
・ほうじ茶(マグカップ一杯分)
・・・カフェイン50mg(19杯まで
・ウーロン茶(マグカップ一杯分)・・・カフェイン50mg(19杯まで
・紅茶(マグカップ一杯分)
・・・カフェイン75mg(13杯まで
・コーヒー(マグカップ一杯分)
・・・カフェイン250mg(3杯まで
・ピュアココア(マグカップ一杯分)
・・・カフェイン8mg(124杯まで
・レッドブル(市販250ml一本分)
・・・カフェイン60mg(16本まで
・モンスターコーヒー(市販250ml一本分)
・・・カフェイン160mg(6本まで
・リポビタンD(市販100ml一本分)
・・・カフェイン50mg(19本まで
・眠眠打破(市販50ml一本分)
・・・カフェイン120mg(7本まで
・強強打破(市販50ml一本分)
・・・カフェイン150mg(6本まで

個人的には玉露茶が意外にカフェインが多いという印象だが、皆様はどうだろうか?
ちなみに、この値は体重によって大きく作用される。体重40kgの人の場合、これの2/3の量まで。つまり、コーヒーなら2杯、眠眠打破なら4本までだ。なお、小児(7歳未満)はカフェインを分解する力が極端に弱いので(成人の2%くらいしかない)、カフェイン入り飲料を与えてはいけない。また、カフェインは母乳や胎盤も通過するので、授乳中のお母さんや妊婦さんも飲まないほうがよいだろう。


安全にカフェインを楽しむためには

より安全にカフェインを楽しむために、カフェインの体内での濃度も知る必要がある。カフェインは飲んだ後だいたい30分~2時間後に血中濃度が最大になり、3~6時間ほどで半分くらいの濃度に落ちる。なので、カフェインの多いエナジードリンクや錠剤をとるときは、最低でも3時間程度はあけたほうがよいだろう。また純粋なカフェインの錠剤(100~300mgのもの)は頭痛薬として処方されるが、その時も4時間を空けての服用が求められているようだ。ニュースによると、今回亡くなってしまった方は、慢性的な睡眠不足によりこのカフェイン錠剤を飲んでいたそうだ。カフェイン錠剤+エナジードリンクの多用によって中毒となってしまったと考えられる。
また、お酒だって下戸の人もいれば大酒のみもいるように、カフェインだって個人差があるものだ。自分がどのくらいカフェインに弱いのかは、普段コーヒーなどを飲んでいたらなんとなくわかるものだろう。コーヒーなどを飲むときは、自分がカフェインに強いのかどうかを少しだけ意識して楽しむようにしてほしい。


あしど毒多(あしど どくた)
某大手食品メーカー研究室に勤務。
学生時代、実験でスペルミジンの合成に成功するも、衣服に付いたその臭いで変態呼ばわりされた苦い過去を持つ。
学生時代に得た「化学のすすめ」を合い言葉に、日常生活における化学を一般の人にわかりやすく伝えたいと日々尽力する化学オタク