寄稿 ドロ舟日本の行方


逃げちゃ駄目?

質問 異次元緩和で相場も持ち直し、長いこと塩漬けになっていた株式がようやくプラスになりました。リーマンショックの後で投げ売りしなくて本当に良かったと思っています。「長期投資家は必ず勝つ」とセミナーで聞いて実践していますが、最近読んだ投資関係の本には、「損は小さいうちに手仕舞うのが鉄則」とありました。全く逆の事を言っているようですが、本当はどちらが正しいのでしょうか?(43才、自営業)



顧客からクレームがあったり、他人に迷惑をかけてしまったりした場合、問題から逃げ回って解決を先送りしていると、多くの場合は悪い方にどんどん事態が進んでいく。相手の怒りが増幅してしまい、他の分野まで感情的なしこりが尾を引き、経済的な損失や心労が増す結果となってしまうことも多い。
もちろん、「自らの非がないものでもとりあえず謝っておけばよい」という時代ではないし、多くの文化圏で”善意の謝罪”は付け込まれてしまう。しかし、早めに行動を起こさなければならないという点は、社会人の基本であり、万国共通といえるだろう。


■「逃げなくちゃ駄目だ、逃げなくちゃ駄目だ、逃げなくちゃ駄目だ」

一方、投資の世界では逃げる事が極めて重要である。質問者さんは7年間塩漬けにしていただけで済んだが、この間に倒産した企業もあるし、かつて安全性が高いと思われたREITも破綻し、電力株は経営環境が激変し暴落した。こういった銘柄を保有していたら、相場が戻っても損失を取り返す事はできない。外国株や外貨投資でも、韓国ウォンやインドルピーのように大幅に切り下げられたまま未だに戻っていない通貨もある。
また、この7年間にリストラや自然災害でお金が必要になった方も少なくないだろう。投資とはそういうときの為なのに、この7年間は売るに売れずに悶々と頭を悩ませていたポジションは役に立ったといえるのだろうか。仮に売却しなければならなくなっていたら大きな損失が出て、「だから投資なんてあなたにできるはずはないのよ」と身近な人に言われていたに違いない。


■相手の行動に関与できるか否か?

投資では傷が浅いうちに逃げるのが、生き残る投資家の鉄則である。実社会では逃げちゃダメと言われるのになぜ投資では逆なのか。実を言うと実社会でも逃げなくちゃ駄目な状況も結構ある。地震、台風、火事、津波、大事故、洪水、噴火といった自然災害は逃げなくてはいけない。「大雨のバカヤロー」と叫んでも、足下の水量に変化はない。また、山の中でイノシシに遭遇しても、街中で暴徒に出くわしても逃げるが勝ちである。冒頭で紹介したような逃げちゃ駄目な例では、相手が個人だったり、家族や友人だったり、会社組織だったりと、対峙する相手の顔が見える存在である点が共通している。つまり、こちらの行動により、相手の考え方やその後の行動に何らかの変化が期待できる場合だ。
そこで、外国為替市場や株式市場と貴方の関係を考えてみる。貴方が「円安を止めるぞ!」と米ドル売り円買いで頑張っても、ガソリンスタンドで嫌な思いをしたからといって親会社の株をカラ売りしても、市場への影響力は数兆円の資産家ならともかく、数億円資産があってもあるかどうか、投資資金が数百万円ならゼロである。つまり、貴方の投資行動は市場のその後の値動きに対して全くの無力なのだ。自分が無力な相手が押し寄せてくる時にできることは一つだけ、「逃げる」ことだけだ。
さらに悪いことに、投資では「逃げる」ことの方がストレスが大きい。「もうちょっとだけ損が減ったら」とか「なんとかなるかも」という人間の持つ願望と期待が入り混じった感情を冷徹に振り切らなければならないからだ。
ちなみに、現在の市場環境は次のバブル崩壊が近づいて来ているように思われる時期になった。将来できるだけ多くの方に「このへんなオヤジの言うことに耳を傾けて良かった」と思ってもらうことを目指して来た。しかし相場の価格形成の仕組みから言って 全員が助かる事はありえない。大多数の市場参加者が売ろうと思ったら即座に相場が崩壊するし、売り手だけだと取引はできない。ただ、毎回日本の個人投資家の多くがバブル崩壊のカモネギとなる必要はない。ここからは逃げるタイミングを常に考えながら相場に臨むべきと考える。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)

著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る 土居雅紹/著
【内容紹介】 中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。
出版社 :実業之日本社